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コトタさんの教えて!項羽と劉邦 第55回

コトタ「気付けば第55回。

    八王編と並びましたが、まだまだ続きそうですね?」

なた「でしょうね……。

   そんなことより今回から紀元前204年となります」

コトタ「韓信が名将と言われる理由となった井陘の戦いが始まるんでしたね」

なた「ええ。

   まあサブタイトルを見ればわかるでしょう」

コトタ「おお??」

なた「では本編をどうぞ!」

 

背水の陣・その1

コトタ「歴史を知らなくても聞いたことがある言葉ですね」

なた「でしょう。

   さて韓信は魏を平定し、代をも陥落させました。

   そして次の攻撃目標は趙です」

コトタ「趙王の趙歇と代王の陳余が相手ですね」

なた「ええ。

   その前に劉邦から要請が来てましてね。

   "楚から滎陽を守る為に兵を返せ"って内容なんですが」

コトタ「これから趙を倒すって時にそれはきついのでは?」

なた「趙の軍勢は20万を超えてますからね。

   韓信はすぐに要請に応えていまして、精兵を滎陽に送り返しています」

コトタ「ってことは漢軍は……というより韓信軍は数万いるかどうか?」

なた「3万程度だそうですね。

   まず趙側の動向から見ていきましょう」

コトタ「お願いします」

なた「趙には李左車という武将がいました。

   彼の祖父は李牧という匈奴から領土を守り切った名将です。

   ちなみに余談ですが、李牧の同僚も名将で司馬尚というのですが、

   そっちは殷王だった司馬卬(司馬懿の先祖)の父親です」

コトタ「いきなり時代が遡った!?」

なた「これから戦う張耳と陳余をこの企画では刎頸コンビと呼称してましたが、

   刎頸の交わりの元ネタである廉頗と藺相如の次の世代の趙将でしてね。

   李牧はノリに乗ってる秦の王翦ですらが苦戦する程の守戦の名将という評価でした」

コトタ「それがこの時代とどう関係するんです?」

なた「李左車には祖父の才能が受け継がれていたようでしてね。

   漢と趙の戦いはどっちが守備側です?」

コトタ「えーっと背いたのは趙ですが、攻めたのは漢ですね」

なた「そう、趙が守備側なのです。

   となれば李牧の孫である李左車がいる趙は有利、

   のはずだったんですがね」

コトタ「はずだった……?」

なた「こちらの会話を見てください」

 

李左車「陳余様、韓信と張耳は魏に続いて代までも平定して勢いがあります。

    その勢いに直接ぶつかるのは悪手と言えるでしょう」

陳余「何が言いたい?

   憎っくき張耳が攻めてきてるのだぞ!?」

李左車「井陘口は車が並走することも、騎兵が列を成すこともできない程狭い道です。

    韓信軍が行軍するとしても軍の長さが数百里(1里は約400m)にもなるでしょう」

陳余「ふむ?」

李左車「そんな状況であれば食糧は後方にあります。

    私に3万の兵をお貸し頂ければ間道から井陘口に入り、兵站を断ちましょう。

    本軍は塹壕を深く掘り、守りに徹すのです。

    決して戦ってはなりません」

陳余「それでどうなる?」

李左車「漢軍は前に進んで戦うこともできず、後戻りすることもできません。

    周りにあるのは壁だけですから、数日で韓信と張耳の首が手に入るでしょう。

    この作戦を実行しないのであれば、我々が韓信の捕虜となります」

陳余「何を言うか。趙には20万の兵がいるのだぞ?

   漢は3万だ。さらに度重なる軍旅で疲弊しているのだ。

   そんな策を用いて勝っては我らは諸侯の笑い者となろうぞ」

 

なた「李左車の作戦は却下されたのでした」

コトタ「もし実行されてたら……?」

なた「韓信は負けていたでしょうし、前漢三傑とも呼ばれなかったでしょうね。

   背水の陣だってなくなるのですから」

コトタ「ほええ……」

なた「で、この会話は韓信のスパイから筒抜けになってましてね。

   井陘口の手前で布陣していた韓信は李左車の作戦が

   実行されないと知り大喜びしています」

コトタ「負ける可能性が下がりましたもんね」

なた「ですね。

   韓信は安心して井陘口に入りました。

   深夜になると韓信は2000の軽騎兵全員に赤色の旗(漢軍の旗)を持たせ、

   間道を通って山上で待機するように命じました」

コトタ「伏兵ですか」

なた「そんな甘いものじゃないです。

   まあ後からわかるので、ここでは置いておきましょう。

   軽騎兵を送り出した韓信は将兵に軽い食事を配膳させ、

   "今日趙に勝ってからいっぱいご飯を食べようじゃないか"と言ったのです。

   将兵は皆"趙の大軍に勝てるわけないじゃん……"と思いつつも、

   話を合わせて"わかりました"と応じたそうです」

コトタ「相手は20万ですものね……」

なた「井陘口の出口近くには趙軍が陣地を築いていました。

   漢軍が攻めてきたところを一気に攻撃する為にです。

   韓信はまず1万の先行部隊を放ちます」

コトタ「出口を塞がれてるなら1万がただ無駄に潰されるだけでは……?」

なた「同じように副将に言われたのでしょう。韓信はこう返しました。

   "大将旗が見えなければ趙軍は先行部隊を攻撃せんだろう。

    先行部隊が潰されたのを見た我ら本隊が引き返すのを彼らは恐れているからな"と」

コトタ「あー、韓信が名将って言われる理由がよくわかりました」

なた「まだ背水の陣の前段階ですけどね?

   朝になると先行部隊が井陘口から出ました。

   先行部隊は攻撃されずに進軍し、川を背中にして陣を築き始めたのです」

コトタ「韓信の読み通り……」

なた「孫子と並ぶ尉繚子という兵法書に

   "川を背中に陣を張れば死ぬぞ"と書かれていた為、

   陳余は城から韓信の先行部隊を眺めながら

   "あいつは兵法を知らんのか"と笑ったそうです」

コトタ「逃げ場がなくなりますもんね……」

なた「では今回はここまでにしましょう」

コトタ「ここまで!?」

なた「サブタイトルにその1って書いてるんですから予想できたでしょう?」

コトタ「それはそうですけどーーー!」

なた「次回をお楽しみに!!!」

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